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未来を創る
エンジニア教育の再定義
インストラクショナルデザインがもたらす、
現場で活きる実践的エンジニア育成への挑戦。
法政大学
上田 浩
情報メディア教育研究センター 教授
博士(工学)
株式会社プログデンス
関口 博紀
専務取締役(COO) 兼
DX戦略事業部 事業部長
Q1上田教授のプロフィールを簡単にお伺いします。
上田
私は京都府福知山市の出身で、地元の舞鶴高専を卒業しました。普通なら、その後はエンジニアの道に進むのが一般的なのですが、なぜか流れの中で塾の講師をすることになりました。ただ、そこでの経験から、「自ら学ぶ意欲がなければ、どんなに教えても意味がない」ということを強く感じました。今思えば、これが私の原体験といえます。
本当は高専の先生になりたいと思っていました。高専は学校教育法上の高等教育機関に位置づけられていますので、中学校を卒業したばかりの学生が、いきなり大学教員レベルの教育を受けることになります。私はその学びがしっかりと身につき、まさに自分の血肉になったという実感がありましたから、「高専の先生って素晴らしいな」と思っていました。
ただ、高専の教員になるには博士号が必要なので、豊橋技術科学大学に進学し、博士課程に進みました。学位取得後は就職活動を行い、大学で教える立場になったというわけです。
Q2上田教授の研究テーマについてお伺いします。
上田
学生時代は免疫系の数理モデルに取り組んでいましたが、その一方で、研究室のネットワークやサーバー構築にも深く関わっていました。そうした経験をきっかけに、現在は大学のインフラ関連の業務に携わっています。
その流れで、情報セキュリティ教育を担うことになりました。ただ、授業だけでは限界がありますし、教職員への展開も課題でした。そこで、eラーニングの導入に取り組み始めたのが、今に至るまでの最初のきっかけです。
実際のところ、教育にしてもeラーニングにしても、重要なのはコンテンツの制作です。しかし、「これによってどのような効果があったのか」、「効果を定量的に示せるのか」と問われても、明確に答えられないところに、この教育の仕方の問題があると感じていました。
この課題に向き合うためには、単なるLMS(Learning Management System)といった技術だけではなく、教育内容そのものに踏み込む必要があると考えました。そこで、インストラクショナルデザインの考えを取り入れた教育に取り組み始めた、という流れになります。
Q3プログデンスとの共同研究についてお伺いします。
関口
弊社はもともと、ID管理(IDM)領域におけるSI導入や、「iD Flow Orchestrator」という自社パッケージ製品の提供などを行っています。
その営業・販売の領域でお世話になっている外部顧問の方がいらっしゃいまして、そのご縁で上田教授をご紹介いただきました。
ID管理領域のサービスは、ユーザー数が多いほどコストパフォーマンスが高まるため、主な顧客は大企業や大学などの高等教育機関になります。この外部顧問の方は、大学関連の案件に多く関わっておられ、その流れで今回のご紹介につながったという経緯です。
上田教授に最初にお会いした際に、とてもエンジニアに近い感覚をお持ちだと直感的に感じました。「この方となら面白い取り組みができそうだ」という確信があり、ぜひご一緒したいと思いました。
中でもインストラクショナルデザインやeラーニングなどの教育手法にも精通されており、弊社が抱える課題と非常に相性が良いと感じました。
もともと私自身、エンジニア教育において「本当に実務能力が身につくのか」という課題意識を常々持っていました。資格は取得できても、実務でネットワーク設定ができるとは限らない。ではどうすれば、継続的に学習を促し、その効果を測定し、適切にフィードバックできるのか。そこに難しさを感じていたんです。そうした課題に対して、上田教授とご一緒することで、より実効性のある教育へと進化させられるのではないかと考えました。
特に大きな課題として感じたのは、未経験者を約3か月間の研修を経て現場に配属するという弊社のスキームでした。あるとき弊社の現場のエンジニアから、「もう少し教育してから送り出してきてほしい」と言われたことがあったんです。研修自体は手厚く行っているつもりでも、現場では通用しないという状況が生まれ、結果的にOJT頼みになってしまう。この3ヶ月間の研修期間の使い方には、まだ改善の余地があるのではないか。そうした思いは以前から持っていました。
上田
教育におけるインストラクショナルデザインの考え方が、企業の中でも期待感を持って受け入れられているのは、率直に嬉しいことです。
一方で、それは大学側で十分に教育ができていないことの表れでもあると感じており、私たちとしても反省すべき点があると思っています。
Q4プログデンスの教育の現状に、どのような課題を感じますか?
関口
エンジニア教育においては、座学だけではあまり意味がないと考えています。そのため、実機を使ったハンズオン形式を中心に、実際に手を動かしながら学ぶスタイルで進めてきました。
とはいえ現状では、プログラムの内容自体は毎回同じものを同じ形で教えているため、やや形骸化してきていると感じています。一通り教科書どおりの設定ができるようになるところまでは到達しますが、いざ現場に行くと、なかなか学んだことが発揮できないという。
なぜそうなるのかという問題に対して、一つは、より実践的なトラブルシュートの経験が不足しているのではないかと感じています。現状ではそうしたシミュレーションをあまり取り入れていないのですが、実務ではトラブルを解決できてこそ価値があります。そのため、ロールプレイやシミュレーション形式でトラブル対応を経験させるような学習も、今後は取り入れていく必要があると考えています。
上田
理想は、自分が他者に教えられるレベルまで理解することだと思います。よく言われている考え方ではありますが、それが最も確実に定着している状態だと思います。
関口
現状は教科書どおりのきれいに整理された内容を、他者に教える形にとどまっています。その範囲は理解できるようにはなるのですが、そこから先の内容を自ら整理し、コンテンツ化し、さらに他者に教えるというところまでは、まだ十分にできていません。
上田
教科書どおりにきれいに教えることは、教育を効率よく行うためにあるものですので、それは必要不可欠な要素だと思います。単なる手法の話ではなく、教育内容そのものにどう踏み込むのかを考えるということでしょうね。
そもそも大学で教授が教えるということの意味は、授業内容そのものだけでなく、そこに紐づく自分自身の研究や経験に基づいた「余談」にあるのだと思っています。余談は、一見すると本筋から外れているようで、実は理解を深めるうえで非常に重要です。それがなければ、動画で海外の講義を見れば十分ということになってしまいます。
以前、ある著名な情報セキュリティの先生がおっしゃっていた言葉が印象に残っています。「授業は一発芸だ」と。だからその先生は、ビデオ録画やeラーニングはあえてやらない、という考えの方でした。確かに、余談も含めて、その場で生まれるやり取りや空気感こそが授業の価値であり、まさにその瞬間だけの一発芸なのだといえます。
企業においても同様で、単に内容を教えるだけでなく、実際の案件を通じて得た気づきや経験、つまり余談を共有することに価値があるのだと思います。ケースバイケースではあるのでしょうが、そうした現場の知見こそが、本質的な学びにつながるのではないでしょうか。
なんて偉そうなことを言っていますが、大学側も今は多くの問題点を抱えています。これは多くの先生方も感じていると思いますが、就職活動の早期化が進み、学部2年のうちからインターンシップに参加し、そのために授業を休むといった状況も珍しくなくなっています。こうした状況は裏を返せば、「大学の授業よりもインターンの方が価値がある」と見られている可能性があり、授業が過去問対策のような形で終わってしまっているのではないかという危機感があります。
だからこそ、教科の内容だけでなく、研究に向き合う姿勢や物事への考え方、学びに対する姿勢といったものも伝えていく必要があるのでしょう。
一方で、仮に授業を100%自分の理想どおりに設計したとしましょう。結果、単位を落とす学生が続出したとなると、それはそれで問題になります。そうしたプレッシャーがある中で、「それなら過去問中心でいいか」と考えてしまう先生が出てくるのも、ある意味では理解できる部分があります。
実際には、授業内容と関連する研究が、どのように結びついているのかを、きちんと伝えることが重要だと思います。そして、学生と直接向き合っているという点を、きちんと活かすことが重要です。学生のレスポンスを踏まえながら授業を設計・運営していくことが不可欠だと考えています。
関口
学生を自社の社員と置き換えてみると、すごく理解できるお話ですね。
Q5プログデンスの教育の改善について、どのような取り組みが考えられるかお伺いします。
上田
先ほど関口さんがおっしゃっていたトラブルシュートの取り組みは、実施には相応の労力がかかるとは思いますが、それだけの価値は十分にあると思います。
これまでの知見を活かせる領域でもありますし、実際にどのようなトラブルがあったのかを整理するだけでも、大きなナレッジベースになります。ぜひ取り組んでいただければ、先進的で意義のある試みになるのではないでしょうか。
関口
おっしゃる通りで、あらかじめ答えが決まっているものを教えるだけでなく、自分で調べて答えにたどり着く力を育てることが重要だと思います。トラブルシュートのように、さまざまな知見をもとに試行錯誤しながら解決していく。そのプロセスそのものに価値があります。
実際には効率的な進め方がすぐに分かるわけではないので、最初は総当たりでも構わない。その過程や手法自体も、本来は教えるべきポイントだと感じます。
ただ現状では、それらは現場で学ぶものになってしまっている。だからこそ、そうした経験をシミュレーションできる環境があれば、より意味のある教育ができそうだと感じます。
上田
まさにその通りだと思います。
関口
ただ一方で、環境構築のハードルが高いという課題はありますね。
Q6プログデンスの教育の向上の先に、期待できる未来についてお伺いします。
上田
御社は主にインフラを担う企業だと理解していますので、短期的に分かりやすい成果の差分を示すのは難しいかもしれません。ただ、長期的に見れば、顧客の満足度や提供価値の向上、ひいては社会全体の質の向上につながっていくのではないかと思います。
本学の学生を見ていても、最近はネットワークエンジニアを志望する学生が本当に少なくなってきており、授業でも強い関心を持つ学生は限られています。多くはAIやクラウドといった分野に関心が向いているのが現状です。
その一方で、ネットワークは安定して動いているほど意識されにくく、かえって重要性が見えづらくなっている面もあります。そこが難しいところではありますが、社会基盤としてネットワークが支えているという事実は変わりません。だからこそ、その価値や重要性を、何らかの形で発信し続けていく必要があると感じています。
加えて、御社が手がけている認証基盤も、まさに社会を支える重要なインフラだと思います。認証が止まれば何もできなくなる、というのが今の社会ですよね。例えば「Googleでログイン」や「Yahooでログイン」といった仕組みも、多くの人が日常的に使っていますが、それらが止まった場合の影響まで意識している人は少ないかもしれません。実際には、一つの認証基盤が止まるだけで、多くのサービスが連鎖的に使えなくなる可能性があります。
こうした認証基盤の重要性についても、しっかりと発信していく必要があるのではないでしょうか。
関口
私も新卒の学生に対して、インターネットのネットワークは、もはや社会インフラであり、公共インフラと言っても過言ではないという話をします。
すぐに命に関わるものではないかもしれませんが、止まればビジネスは成り立たず、日常生活にも大きな影響が出ます。スマートフォンがあっても、ネットワークがつながらなければ、できることはほとんどありません。だからこそ、ネットワーク技術を継承し、しっかりと支えていくことは、社会にとって非常に重要な役割ですし、誇りを持って取り組める分野だという話をしています。
一方で、どうしても光が当たりづらい分野でもあります。いわゆるITの裏方と見られがちで、イメージも決して華やかではありません。ただ、その分クオリティが求められる領域でもあり、社会インフラとして確実に機能し続けることが何より重要です。実際、インターネットにつながっていること自体を、普段は誰も意識しませんよね。
スポットライトを浴びる職業ではないかもしれませんが、なくては生活が成り立たない。だからこそ、その品質を安定的に維持し続けることには大きなやりがいと価値があると思っています。
上田
そのとおりだと思います。
そして、御社の教育のクオリティが上がることは、社会のクオリティをますます維持・向上させることにつながっています。私としても、自分の研究から得た知見をもって、今後も御社を支援していけたらと思います。
関口
ありがとうございます。
宜しくお願いします。
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